2024.04.23Vol.636 の先
4月29日(月)~5月11日(土)までは2週間教室が休みになるのに伴いブログもお休みになるので、次回は5月14日になります。
月1回で始めたブログ、少し自信が付いたのと格好良く言えばもう少し自分を追い込もうと週1回に変更してから初めて3週間も空くことになる。束の間の休息が頭の活性化を促し、その後せめて1か月ぐらいは、納得の行く文章がすらすら書けるようになってくれないだろうか。
まだ、読み始めなのだが、田内学著『きみのお金は誰のため』より。
「そうよ。私みたいな若い女性って、日本のお客さんには軽く見られちゃうのよね。だから、株価上昇の理由とか聞かれたら、『グローバルな過剰流動性相場』とか、わざと難しい言い回しで答えるの」
「僕には全然わかんないんですけど」
優斗は頭をかいた。
「それでいいのよ。難しい単語を覚えただけで、多くの大人は満足するのよ。今の説明って、『世界でお金があまっているからです』と言っているだけなのにね」
(中略)
その様子を笑顔で見守っていたボスが、話をまとめた。
「彼らは、難しい単語が知恵の実とでも思っているんやろな。過剰流動性という言葉を覚えれば理解した気になる。せやけど、知恵の実を食べて賢くなるわけやない。知恵は育てるもんや。重要なのは、自分で調べて、自分の言葉で深く考えることやで」
ここ何度か同窓会の話をしているが、そのスピンオフ企画としてプチ同窓会が先週末行われた。参加したのは男女4人ずつの8人。3月に行われた同窓会で、一人の先生が「同窓会は、旧交を温めるだけではなく、仲間との新しい出会いの場でもある」というようなことを話されていた。実際、7人の内、私が高校時代にある程度ちゃんと話したことがあったのは2人だけであった。皆似たような状況であったため、それぞれが「何だかよく分からない会」というようなことを漏らしていたが、そのような関係性だからこそ、想定しない話などが出て面白かった。今年で47歳になるので、老眼を含め、自然と肉体的な衰えの話になる。そこで、「心頭体」理論をやんわりと披露してみた。「心って、意外と昔から変わってへんねん」といった感じで。激しい同意も無かったが、強い反論も無く「なるほど」程度の共感は得られた。調べたわけでは無いし、深くもないが、自分の頭で考えたことがそれなりに受け入れられるのは嬉しいものである。
遡ること約3カ月。2月の頭に中高一貫校に通う高一の男の子のお母様から進路に関して相談に乗ってもらえないかとの連絡をいただいた。彼は豊中校の生徒なのだが、中学受験のときに算数は西北に通っていたのでよく知っている。豊中校に赴き、面と向かって話をした。冒頭、考えていることを私に伝えるように促した。その内容をものすごくかいつまむと以下のようになる。「小さい頃から宇宙のことが好きで、両親にもいろいろなサポートをしてもらった。だから、もし、理系に行かないとそれが無駄になるようで申し訳ない気がする」。少なくとも5分ぐらいは黙って耳を傾け、本人の気持ちに対する理解を深めながら、どのように話をしようかと考えていた。一区切りついたところで、「サッカーも一生懸命やっていて、それこそ送り迎えなどもたくさんしてもらったはずやけど、プロにならへんから親に申し訳ないとはならへんやろ?それと一緒や。親というのは、子供の幸せを望むもんやから。自分のやりたい仕事を見つけて、充実した生活を送ってくれるのが一番。話し始めたときから思ってたけど、文系に行きたいんやろ?」。少し間をおいて、「そうです。でも、親が理系の方が技術を身に付けられるから、と言うので、、、」。それに対してどういう具体例を出したかは忘れてしまったが、「ものすごく分かりやすく言えば、Fラン大学(良い言葉では無いので日頃使うことはないが)の理系より、東大の文系の方が明らかに市場価値は高い」というような極端な説明をした気がする。要は、何もないよりは技術があれば少しはましだが、所詮そんなレベルの話である。初めは曇っていた顔がすごく晴れ晴れとしたものになり帰って行った。また、2つのことを伝えた。「もし、お父さんやお母さんが文系に行くことを心配してるんなら、電話してもらえれば俺が説明するから」、「高2の1年間で、文系でどのような面白い学部があるかは調べなあかんぞ。それについて、志高塾でいろいろと作文してみるのも1つや」。その晩だったか、翌朝だったかは忘れてしまったが、お母様より電話があり、上のような内容を説明して納得していただいた。
台湾のTSMCが熊本に工場を作ったことがよくニュースとして取り上げられる。中国が侵攻して来ることを見越しての分散の意味もあるのだろうが、半導体を製造するためには多大な電力と水を必要とするため、規模を拡大するのであればそれらの資源が十分でない台湾から出る必要があったのだ。今、熊本のTSMCでは半導体の技術者不足が深刻で、そのため熊本大学が半導体関連の学生を増やそうとしているとのこと。これが正に、上の理系の技術ということになる。私が大学受験を控えた子を持つ親なら、「今、半導体が流行りで、くいっぱぐれないから大学でそれについて学んだ方が良いぞ」というようなアドバイスをすることは絶対にない。より小さな半導体の製造をするために最先端の研究をしたいというのであれば意味は分かる。もちろん、本人がその分野に興味を持っていれば、の話である。「の先」とややこしいタイトルを付けたが、この件に関して言えば、「半導体の先」を見越す必要がある。半導体に関して私が覚えているのでは「インテル入ってる」であり、1980年代に日本企業が50%程度のシェアを占めていたことは知識として知っているだけであり、実感したことはない。AIなどの今後の世の中の技術革新における半導体の重要度はさらに高まっていく。現在、人口問題、環境問題など社会に関わることを学ぶ「資料読解」の教材を作り替えようとしているので、これを新たに付け加えたい。半導体とはどういうもので、どのような歴史があり、今、どのようなところで使われていて、今後どのようになって行くと考えられるか。
「重要なのは、自分で調べて、自分の言葉で深く考えることやで」。自分で調べてみよう、となるように、まずはそのことについて立ち止まって考えさせる機会を作るのも我々が果たすべき重要な役割の1つである。いろいろなこと「の先」を考えることはきっと楽しい。