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2023.08.08Vol.602 夜はまだ明けない

 独立することを母に告げたとき、「企業に勤めていた方が安全では無いのか」、「塾をやるにしても、西宮北口ではなく、もう少し塾が少ない所でやった方が良いのではないのか」という言葉が返って来た。安全かどうか、という考えが頭にまったく浮かばないわけではないが、そんなものは自分が人生において何かを選ぶ際の基準にはならない。生徒の志望校選びでもそうである。その子にとってどこの学校が良いのかを自分なりに考えて、提案し、そこに合格できるようにやれることをやるだけである。生徒が将来、もっと重要な分かれ道に立ったときに活かせる経験をさせてあげたい。また、テレビCMでもよく見かける、世界シェア1位のある大企業で技術職をされているお父様が面談の際に、「私の技術は今の会社で通用するだけで、他のところでは役に立ちません」ということをおっしゃっていたが、それは決して珍しいことではないのだろう。未来永劫安泰な企業など無いのだから、いつリストラの憂き目に遭うかなんて誰にも分らない。つまり、どこにも安全など存在しないのだ。
 場所に関しては、西宮北口以外はまったく考えなかった。そのことに関する母の発言に対して、少なくとも私は2つのことを伝えたのを覚えている。1つ目は、「ど真ん中でやってうまくいかへん奴はどこでやってもうまくいかへん」ということ。心底そのように考えていたのだが、そもそも激戦区というのは、ネガティブな要素ではないのだ。競争は激しいが、裏を返せば子供たちが自然と集まってくる環境であるからだ。また、我々は進学塾ではないので、大手とは競合関係にはならない。始めて3年ぐらい経った頃だろうか、大手塾の、しかも国語の先生から勧められて体験授業に来られた方がいた。国語の成績が悪いのでその先生に相談をしたら、その塾の個別に行っても成績は上がらないから、志高塾に行った方が良い、とこっそり紹介されたとのことであった。2つ目は、「10個レストランがあったら、もう1回行きたいと思うのは3個しかなく、3度目となると1個しかない。そういう店が7個も8個もあれば勝ち抜くのは大変だけどそうではない。それは教育業界においても同じはず」ということ。先の数字は私の感覚的なものでしかないのだが、残りの7個にはそもそも客に対する心遣いが足りない気がする。そう言えば、あれもきっと3年目ぐらいだったはずだが、あるお母様から退塾の連絡をいただいたときに、「松蔭先生は開校当初の情熱を失ってお金儲けに走るようになってしまった」と告げられたことがあった。「心外だ。失礼にもほどがある」と言い返した。電話口で親御様に大声を出したのは後にも先にもそのときだけである。これには後日談がある。その2, 3年後に、「先生、あのときは私が間違えていました。もう一度息子を教えてやってください」と帰ってこられたのだ。そして、そのときに過去の事情を教えていただいた。そのお母様のお子様をA君とする。同級生にB君とC君がいて、B君のお母様が勝手にC君をライバル視していて、C君の成績が良いのを妬んで、私がC君をえこひいきして、自分たちの子供はちゃんと見てもらえていない、というのをA君のお母様に吹聴し続けていたらしいのだ。それと金儲けの話がどう結びつくのかは分からないが、それが事の真相。誤解が解けたので、私としてはそれで十分であった。教育に関する情熱は、失うも何も、開校時からそんなものは無いし、必要だとも考えていない。講師に応募してくる人の履歴書に「子供が好き」ということが書かれていることは少なくない。私に言わせれば、嫌いでも良いから子供の将来に役立つ質の高い授業をしてくれればそれで良いのだ。情熱は無くても、そういう授業をしなければならないという責任感は持ち続けているつもりである。
 さて、回転させない寿司屋さんの話。カウンターに8席しかない小さなお店だった。そういう形式のお店のシェフ(寿司屋の場合は大将と呼ぶのだろうが)は、客の話をよく聞いていて、決して出しゃばることなく、絶妙のタイミングで話に入って来られる気がする。あの日も、一通り食べ終えたところで、おもむろにカウンター越しに会話が始まった。その中で、「この店、回転させないんですね」と不思議に思ったことを伝えると、「日によっては回転するときもありますが、そんなん毎日してたら持たないです」と返って来た。これは私の予測でしかないのだが、予約が17時半と20時からなどといった感じで偶然うまく組み合わさった場合にだけそうするのだろう。要は、店がそれをコントロールするのではなく、客の希望を優先させているのだ。一緒にしたら怒られるのだろうが、その気持ちは分かる。私も時間割には常に余裕を持たせるようにしている。生徒の振替、曜日変更の要望にある程度応えられてこそ良い教育だと考えているからだ。大将は、回転させた方がお金は儲かるが、どこかで手を抜かないといけなくなってしまうのでそれはしたくない、とおっしゃっていた。また、その日、パリでミシュランの星付きのフレンチレストランを経営している日本人シェフも来ていて、大将がうまく架け橋になってくださったので、どんな店をされているのか、日本人は多いのか、ワインの買い付けはやはりワイナリーに行くのか、など気になったことをいくつか質問した。その方の店も席数は多くなく、フランス人の常連さんの貸し切りになることが少なくないとのことであった。久しぶりにパリに行きたいな、と考えていたところだったので、その際には早めに予約を入れて訪れてみたい。
 大将が1歳上、シェフが3歳下、と年齢が近かったこともあり、「俺ももっとがんばらな」とエネルギーをもらえたし、規模の拡大ではなく一人一人の生徒を大事にすることの重要性を再確認できた夜であった。

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