
2020.07.07Vol.453 シェイプアップ。そして鏡に映し出されるもの
「そこどんこ」。大いに悔やんだ。なぜ最後の一文を「来週はタイトルもちゃんと考えよ。」ではなく、「逆転の発想で」という内容を盛り込んだものにしなかったのかと。ネタふりをしていたら、このくだらないので行けたのに。仕方なく真剣に考えてひねり出した。どうでしょう?大したことないと思われたあなた。絶対に「おー」と思わせてみせます、逆転の発想で。バーが上がりすぎると引っ掛けたり場合によっては優雅にその下を飛んでしまったりしそうなので、ほどほどの期待度と共に文章をお楽しみください。
生徒のタイトルに関する話を。『ロダンのココロ』に取り組んでいる生徒の付けたものが面白くなく、考え直しをさせると十中八九8コマ漫画と自分の作文の間を行ったり来たりする。補足をすると、200字の要約作文を書き上げた後にタイトルを付けるというのが基本的な手順だ。中には作文の前にする生徒もいるがそれはそれで構わない。4コマ漫画の『コボちゃん』を卒業しているので、最低限の経験は積んでいる。オチに絡めた上でネタバレにならないものにしなさい、という方向性も示している。なぜ行ったり来たりするとかというと、必死になってその中にヒントを見つけようとしているからだ。それではうまく行かない。使えそうな単語やフレーズを見つけて、少し加工して終わりにしようとするからだ。それゆえ「漫画も作文も見ずに付けた方がいい。話の内容は頭に入ってるんだから見る必要ないやろ」という声掛けをする。それでもうまく行かない生徒には取って置きのアドバイスをする。「あのな、タイトルと言うのはな、全体をヒュッと掴んだらえーねん」。これだけだと意味が分からないので、ジェスチャーも付けている。20cm四方の薄いハンカチの真ん中を、小指を除いた4本の指でふんわりと摘まみ上げるというのがそれだ。あくまでもイメージの話である。話全体をカバーした上で、真ん中のオチに当たる部分を持ち上げてあげるのだ。間違えても、中高生の男の子の汚れた靴下を、腕を目いっぱい伸ばして顔をしかめながら親指と人差し指の2本でつまんでいるそれではない。これまで何十回とこの伝家の宝刀を抜いて来たが生徒の反応は漏れなく「何言ってんだ、この人」という冷たいものである。長嶋茂雄に匹敵する感覚的な表現なのだがそうとしか言いようがないのでしょうがない。私の言葉は生徒にまったく響かず、「よし、分かった。俺もタイトルを考えてみるから勝負やな」と次のプロセスに移行する。念のために断っておくと、話ごとのタイトルをどこかに書置きしていないのはもちろんのこと、「この話はこういうもの付けたよな」というのを覚えているわけではない。仮にそういうものが頭に残っていたとしたら、それをそのまま使うのはずるいのでまったく違うものをゼロから考える。多くの場合、2, 3分で「これや!」というのが思い浮かぶ。すかさず一生懸命に試行錯誤している生徒に向かって「いやぁ、めっちゃいいの思いついたわ。これ超えるの出すのは無理やろなぁ」と追い打ちをかける。プレッシャーに負けた生徒がいいものを出せずに終わったところで、頭の中で「ジャン」という効果音を響かせながら我がアイデアを披露する。私だけが気持ち良くなってこの一連のやり取りは終焉を迎える。世に言うハッピーエンドである。
ようやく本題。3年ぐらいかけてじわじわと4kg太った。こういうのを「茹でガエル」と呼ぶ。熱湯に入れられたカエルはあわてて飛び出すが、適温からじわじわと上昇していくとそれに気づかない。悪化のスピードが緩いと危機感を抱くことなく致命的な状況に追い込まれてしまうことの例えである。「コロナ太り」ではなく「積年太り」を解消するために3月ぐらいからダイエットを始めた。まず、毎朝ご飯を食べ終えてすぐに体重計に乗るようにした。1kg落とすのは簡単である。余計な間食などを減らし食べる量を押さえればいいだけだからだ。ただ胃袋自体が小さくなっているわけではないので、気を抜けばすぐに元に戻る。特に注意が必要なのは、食べすぎたかな、という翌朝に体重が増えていないときである。-1kgが俺の体のベースになった、などと勘違いして「今日もいいか」と油断すると、2, 3日遅れで増加する。そんなことを繰り返しながら、現在-2~2.5kgの間を行ったり来たりしている。-3kgまでは難しくないだろうが、そこからさらに1kgとなると年を重ねた分もうひと工夫必要になる。
さて、話は変わらない。ガウディが考案した、糸と砂袋を使った「フニクラ」と呼ばれる実験装置がある。ピンと張らずに糸の両端を水平な板などに固定すると、カーブを描いて垂れ下がる。1本だとおもりは要らないが、何本もの糸と何個もの砂袋を複雑に組み合わせたものがそれである。詳しくは「ガウディ フニクラ」で検索していただきたい。今はコンピュータが計算してくれるが当然のことながら当時そのようなものはない。上の実験でできたものを上下反転させることで、サグラダファミリアのアーチの形状が決められた。構造的にそれが最も強いからだ。大学生の頃にバルセロナを訪れ、その逆さ吊り模型を実際に目にした際は少し興奮した。その下に鏡が置かれていて、上下反転した様を眺めることができるのだ。
そろそろ締めに入ろう。私がお願いした通りにバーが低く設定されていたなら、「鏡を見て、どうせお腹周りが、と言い出すんだろ」となっているはずだ。
シェイプアップ。セイプアップ。セイキアップ。セイセキアップ。な、な、なんと。私の体重減のグラフを上下反転させると、成績が伸びて行くときのグラフになるのだ。驚き。先に断っておくと、4年生までの進学塾の成績は何の当てにもならない。国語も算数も問題が単純なので、早く塾に通い始めていたり他の子より長く勉強したりすればそれなりの成績は取れるからだ。先の2つの条件を満たしているのに成績が悪ければ、そのままのやり方で改善される可能性はゼロなので早急に手を打たなければならない。5年生になってじりじりと下降していき、どこかのタイミングでそろそろどうにかしないと、となり対策を打つと瞬間的には上がる。そこで「ちょっとやる気になれば上がったから賢いかも」と調子に乗ると元の木阿弥である。きちんと考える勉強を積み重ねて行くと、上下動しながらも確実にある程度までは上がっていく。実際、私の体重は当初は1日で1kg変動することはあったが、今は±0.5kgに収まっている。変動幅が小さくなるのも着実に効果が現れていることの1つの証である。ある程度まで行き、そこからもう一段となったところが本当の勝負どころである。そこを正攻法で乗り越えられれば、それは受験後にも生きる貴重な経験になる。
文章を書き始める前はかなりのできになるはずだったのだが、タイトルの話が長すぎたせいで間延びした感は否めない。でも、バーはちゃんと超えられただろうから良しとしよう。