
2020.03.17Vol.439 私が話したこと
小1の頃から12年間通ってくれた高3の女の子が、昨日私に会いにやってきた。今回は、そこで話したことを思い出しながら書いて行く。
前日に時間を取って欲しいと目的を告げることもなく連絡してきた。既に結果が出ている第一志望の国公立の受験結果を知らされていなかった。こと受験に関しては、便りが無いのは良い便り、ではない。「お世話になりました」という軽いあいさつ程度だと思っていたら、「相談があります」ということであった。その内容は「家から近いA(大学)に行くか、通学に2時間かかるBに行くか、どちらがいいと思いますか?私も含め、家族内ではAがいいとなっています」というものであった。それだけ通学時間に差があるのに迷うということは、Bにプラスの要素があるということである。偏差値が若干高いのだ。瞬間で「Bであってもどうせ社会的に価値はないから、そりゃAやで」と返して、結論は出た。
どのような教授がいて、どのようなことが学べるかなど仔細に調べて行けばAとBに差はあるはずである。しかし、2時間をひっくり返して余るあるものがBに無いのは間違いない。少なくとも受験した本人が現時点でそのようなものを認識できていないのだから。恥ずかしながら、昨日初めて「沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University」、通称「OIST」の存在を知った。2019年に雑誌『Nature』を出版しているシュプリンガー・ネイチャー社が発表した質の高い論文の割合が高い研究機関ランキングで、日本の大学ではトップの9位に入った。東大は40位である。設立8年目の快挙である。もちろんそれだけで「東大を抜いた」とはならず、雑誌の記事にさらっと目を通しただけなので現時点で何とも言えないのだが、今後要注目である。なお、この段落のことは彼女と話したわけではない。
結論を伝えた後に、まず受験勉強のことを振り返った。「行きたい学部が国公立には無い」とよく分からない理由を付けて私立文系コースに進もうとしていたのを、私は「訳が分からない。勉強をやり切る自信がないだけやろ。別にそれはいいけど、残りの学生生活何を頑張るんや」と突き返し、紆余曲折を経て国公立文系を選んだ。秋ぐらいの時点で、周囲の同級生が推薦で大学が決まり浮かれていることに対して不満を漏らしていたが「目指しているところが違うねんから関係ないやん」となだめていた。勉強への取り組みに対しては「周りから見て『やってない』と批判されない程度にやっていただけで、必死さは感じられなかった。そのことは自分が一番よく分かってるやろ?そんなんでうまく行くほど世の中甘くはない。仮にそれで何かを手に入れられたとしたら、その何かは大して価値のないものだよ」と。そして「一生懸命頑張って得た環境が自分に合っていなかった場合は『選ぶところを間違えた』と切り替えられるけど、消極的に入ってしまったところであれば『望んでいたところとちゃうからそらアカンよな(いわゆる想定内、というやつである)』で終わり、そこから抜け出せずにズルズル行くもんだよ」と続けた。
その後、入学後のことに話を移した。「周りから刺激を受けられる可能性は非常に低いから自分なりの目標を持たなアカンで」の言葉には「今のところ、TOEICしか思い浮かびません」と返って来た。「同じ英語に関する目標を立てるんやったら、留学の方がいいで。阪大に行った男の子は、入学したときからそのことを念頭に置いていて、希望通りカナダのブリティッシュコロンビア大学に1年行った。今の時点で、目標を持っている人自体が少ないからそれはええねんけど、(あなたが知っている)東大の医学部に行ったK君は、高校の時点で既に未来の展望を持っていたで。まあ、彼は超特殊な存在やけど。」と話した上で、「俺が大学生の頃、意識の高いやつは設計事務所で図面を引いたり、模型を作るアルバイトをしていた。建築家になるにはそういう修行を積まなアカンというのは俺も分かってたけど(それだけのやる気もなく、積極的にそういうことをやってきていなかったせいで技術的なレベルがアルバイトをする上で十分でなかったため)勇気が無かった。その代わりに建物をたくさん見たり美術館に行ったりしていた。自分のやっていることが正解でないことは分かっていたけど、もがこうとはしていた。(建築系のもの中心に)本もたくさん読んだ(就活を始めてからは経営系のものにシフトした)。建物に関する大学のレポート課題でも、資料を集めて意見を借りて終わるのではなく、できる限り足を運んで自分なりの意見を書いた。文章が下手くそだったからか意見の中身が無かったからか大抵評価は低かったけど、本を読んだことも含め、今の仕事に少なからずつながっている気がする。」と自身の大学生活を振り返った。「TOEICがいいとは思わへんけど、やるんやったら、たとえば800点を目標にするなどそれなりに高い所を目指した上できちっとクリアせなアカンで。最悪なんは『あのときは分かってなかったんです。TOEICを勉強しても意味がない』とか言い出すことやで。目標をクリアした上でそれを言うんやったら分かるけど」。
あっ、そうそう、「こんないい話してくれる人中々おらんから感謝しぃや。」とその日一番大事なことを伝えて、話の幕は閉じられた。