志高塾

志高塾について
志高塾とは
代表挨拶
通塾基本情報
アクセス
お問い合わせ
志高塾の教え方
指導方法
志高塾の作文
志高塾の添削
読解問題の教え方
使用教材と進め方
志高塾の教え方
志高く
志同く
採用情報
お知らせ
志同く


 2か月前に始めた社員のブログ。それには主に2つの目的がありました。1つ目は、単純に文章力を上げること。そして、2つ目が社員それぞれの人となりを感じてとっていただくこと。それらは『志高く』と同様です。これまでXで投稿していたものをHPに掲載することにしました。このタイミングでタイトルを付けることになったこともあり、それにまつわる説明を以下で行ないます。
 先の一文を読み、「行います」ではないのか、となった方もおられるかもしれませんが、「行ないます」も誤りではないのです。それと同様に、「おなじく」にも、「同じく」だけではなく「同く」も無いだろうかと淡い期待を抱いて調べたもののあっさりと打ち砕かれてしまいました。そのようなものが存在すれば韻を踏めることに加えて、字面にも統一感が出るからです。そして決めました。『志同く』とし、「こころざしおなじく」と読んでいただくことを。
 「同じ」という言葉を用いていますが、「まったく同じ」ではありません。むしろ、「まったく同じ」であって欲しくはないのです。航海に例えると、船長である私は、目的地を明確に示さなければなりません。それを踏まえて船員たちはそれぞれの役割を果たすことになるのですが、想定外の事態が発生することがあります。そういうときに、臨機応変に対処できる船員たちであって欲しいというのが私の願いです。それが乗客である生徒や生徒の親御様を目的地まで心地良く運ぶことにつながるからです。『志同く』を通して、彼らが人間的に成長して行ってくれることを期待しています。

2023年12月

2025.04.18Vol.55 忘れ(たい)物(三浦)

 散歩に出かけ、駅までの15分ほどを歩いたところで、ふとワイヤレスイヤホンを繋げようと思った。そして道端で立ち止まって鞄を漁り、イヤホンを装着したところで、何を流そうかとスマホを取り出そうとし――ようやく、スマホを家に忘れていたことに気付いた。目的地はもう15分歩いた先のカフェだ。取りに帰ろうか帰るまいか悩み、けれども鞄に本が入っていることを確認した後、思い切ってそのままカフェまで向かうことにした。ただ色々と考えが取っ散らかる方なので、その道中ではメモのための小さなノートとペンを百均で購入もした。220円ほどオーバーな出費だったが、当然、そのもとを取れるような時間となった。
 腕時計もなかなか最近はしていないので、時間もわからない状態だった。窓際の席を陣取ったのをいいことに、窓の外で太陽がどれだけ傾いているかだけを指標に、もう少し暗くなったら帰ろう、と曖昧な時間間隔の中で過ごしていた。帰り道、最寄りの駅前広場にある時計でようやく数字としての時間を知り、思っていたよりも長い時間を本と筆記用具だけに集中していたのだな、とわかった。
 これまでもスマホを忘れた経験は幾度かある。徒歩圏内ならまだしも、電車に乗ってからそれに気づいたときには、「もし電車が止まったらどうやって連絡しよう」と、いろいろな心配事が浮かんでしまい、結構焦る。電車でなくともスマホがないだけで「もしも今災害なんかが起こったら、もしくは突然倒れてしまったら連絡を取れないぞ」と漠然とした不安にさいなまれるので、仕方ないのかもしれない。しかしそんな落ち着かなさをよそに置き、読書に熱中したり景色を眺めたり、インターネットに接続されていない「今」という時間に入り込むことができれば、この上なく心地よい時間になる。
 スマホを「見ない」では、きっとそこまで心地よさは味わえない。それは常に、見ないという選択を自分で取っているに過ぎないからだ。少しでも何かあればその選択は揺らいでしまうかもしれない。「見ない」ことを選ぶのと、最初から「見ることができない」のでは、きっとストレスのかかり方が違うのだろう。自分を制御するというのは難しい。
 ちょうど、最近扱った読解問題で似たような文章があった。谷川嘉浩氏、『スマホ時代の哲学』からの出題である。そこではインターネットによって常時世界と接続された世界の中では、数多くの刺激に意識を割くことで注意散漫になり、どんどんと孤独というものが失われていっている、と述べられている。その中で経験として、「祖母の葬式中、スマホが気にかかって仕方なかったが、そうするのはよくない思って電源を落とした。そして風景を眺めたり親戚と他愛のない話をしたりしたものの、片隅には、スマホやテレビの誘惑があった」という旨が語られている。そう、電源を落としていても、そばにある以上は、その気になれば触ることができてしまう。スマホやテレビ、あるいはゲームといった刺激の多い娯楽は、その分だけ誘惑が強い。子供に自制しろと言っても難しいように、きっと大人にとっても難しいものだ。
 以前(かなり前)、新聞で「鈍考」という私設図書室が取り上げられていた。ずっと気にはなっていたのだが、営業日と予定がなかなか嚙み合わず、まだ訪れられていない。入場時にロッカーにスマホを預けることが推奨されているようで、新聞では、そこがよりクローズアップして取り上げられていた。それ以外の部分でも、時間と手間をかけることを重視する価値観には、今一度触れておきたいと思う。
https://donkou.jp/
 そうでなくとも、やはり自分でもデジタル機器から離れる機会はもっと持ちたいと思う。「もしも」のことに怯える自分と折り合いをつけながら、少しずつ近場で慣らしていきたい。あるいは、思いがけず「うっかり」スマホを忘れてしまうような機会をまた待ちたい。

PAGE TOP