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2024.06.11Vol.641 欧州旅行記 ~仮説検証~

 ようやくマンハイムに到着。ヨーロッパ旅行の際には、ある一定以上の硬貨を持ち歩くようにしてきた。美術館のような施設でもトイレが有料であることがあり、しかも硬貨しか使えないからだ。日本では、100円玉しか使えないロッカーのあるところには大抵両替機が備え付けられているが、向こうではそれも無い。そのロッカー、ありがたいことにカードが使えるようになっていた。それゆえ、旅の途中からその数を減らしていたら、最終日に立ち寄ったマンハイムで初めてその状況に置かれた。一番近くの売店で水を買おうとしたら500円ぐらいしたので、少し離れたところで200円程度のものを見つけてようやく小銭を手に入れることができた。そのように苦労したこともあり、帰国後初日の中高生が4人いた授業で、「ヨーロッパやと硬貨しか使えないロッカーがあるねんけど、何でか分かるか?」と質問をした。誰も答えられなかったので、「それはな、向こうは偽造紙幣が作りやすいからや。それを判別する装置を付けるのにお金が掛かるねん」と説明し、その後、いつものように教室に置いてあるタブレットで検索して、「ほらな」と見せる手順を踏んだ。私はこの順番をとても大事にしている。仮説を立てた上で検証を行うのだ。
 志高塾では、記述問題は自分の言葉で書くこと、選択問題は消去法で解かせることを徹底している。また、講師たちには、丸付けの際には解答を見ながらではなく、生徒の記述を読むこと、選択肢を消去する根拠の説明に耳を傾けることを大事にするように、と伝えている。生徒がどのように考えて答えまでたどり着いたのかを把握するためである。それによって、適切なアドバイスがしやすくなる。私は初見の問題でも基本的には本文だけを読んで丸付けに臨む。大学受験の2次試験の過去問レベルになるとさすがにそれでは準備が不十分なので、予め記述問題は解く。生徒と自分の答えを突き合わせて、本文のどこをヒントにしたかなどのやり取りをある程度した上で、赤本の解答を確認する、という流れになる。これも一種の仮説検証である。特に京大の赤本の解答の質は低いと言われているので、それをあてにし過ぎるのは非常に危険ということもあるが、仮に解答、解説共に適切であったとしても、授業の前にそれらを頭に入れ込んで、こことここをヒントにして、それをこういう風につなげれば丸になる、という説明はしない。それだと、生徒が「ふーん」となって終わってしまうからだ。
 さて、選択問題。中学受験レベルのものでも私が答えを外すことは普通にあり、逆に生徒が合っているということもある。その場合でも、丸付けの際には自分のものが正解だと思い込んでいるので、生徒の答えが誤りである理由を本文と照らし合わせながら論理的に説明をする。そして、自信満々に解答を見て、「あれ?」となり、少々焦る。間違えていたことを謝った上で、自分が論理的だと思い込んでいたもののどこがずれていたのかを把握して、「俺のここの解釈が間違っていてんな」と明確にして、次の問題に移る。そんなことだらけだと「あの先生、よお分かってへん」と生徒の信頼を失うが、許容範囲内であれば、「先生間違えたけど、俺(私)は合っててん。先生に勝った」と生徒の自信や満足度を上げることにつながる。
 閑話休題。ロッカーの一件、「ほらな」ではなく、「あれ?」がやって来た。随分と時間が経ってしまったので検索ワードを正確には覚えていないが、「ヨーロッパ ロッカー 紙幣 偽造」といった感じで調べたはずである。すると「ロッカーで紙幣が使えないのは偽造されやすいからではない。高度な技術が用いられているため、それは不可能に近いが、コインを補充することが困難なのがその理由である」というような説明がされていた。自動販売機でジュースを買おうとしたら、時々「釣銭切れ」と出てくるときのあれである。そのときも、その場で「全然違ったわ、ごめん」と間違いを訂正した。区別が付かない偽造紙幣がそんなに簡単に作られてしまうのであれば、人間がその確認を行うレジなどではいくらでも使えてしまうことになるので、私の仮説は明らかにおかしかった。その晩、時差ボケ真っ只中だったので変な時間に目が覚めた。余程授業でのことが気になっていたのか、暗闇の中、近くに置いてあったタブレットで、「東急 券売機 ATM 理由」と打ち込んだ。そして、やっぱり、となった。何年か前に、東急電鉄が駅の券売機にATMの機能を追加した、というニュースを聞いたのが頭に残っていのだ。1万円札だけを引き出せるようにすることで、お釣りとして使われることが絶対にない1万円札が券売機に溜まるのを防ぐことができるのだ。要は、溜まったお札を取り除いたり、逆に不足しそうな硬貨を補充したりするには人手が必要になるのだ。こうやって文章を書いていて、別のことも思い出した。孫正義が若かりし頃、アメリカでインベーダーゲームが流行っていたのを目の当たりにし、向こうで下火になったタイミングで、中古のものを輸入して日本の喫茶店などに置いてもらうということをビジネスの一環として行っていた。ある日、故障したから来い、と怒りながら呼び出されて行ってみると、実は硬貨を入れるボックスがいっぱいになっていただけだった、ということがあった。頭の中でばらばらになっていた情報が何かをきっかけにしてつながるとちょっぴり嬉しくなる。
 前述した東急電鉄の記事を読んでいただく必要は無いのだが、それなりに面白いので、URLを貼り付けておく。
https://news.livedoor.com/article/detail/16569673/
 次回は画家のシャガールの話から始める予定にしている。

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