2024.12.10Vol.666 お話しりとり
翌日の水曜、私と顔を合わせたときの第一声は「先生の時間を無駄にしてすみませんでしたっ!」であった。「謝る必要なんてない。ブログの最後にああやって書いたけど、いつか成長という形で返してくれればそれで良いねんから」なんて言うはずもなく、「ほんまやで、どうしてくれんねん」と返した。
ここからが本題。話はうまくつながって行ってくれるだろうか。直線的ではなく複層的に絡み合ってくれることを願いつつ筆を進めて行く。書き手なのだから、神頼みではなく自らの力でどうにかしろ、という話ではある。
夏休みのことなので少し前の話になるが、6年生の三男のサッカーチームのお父さんたちの初めての懇親会が焼肉屋で行われた。13人全員が参加したのだが、私が話したことがあるのは1人だけで、後は顔も名前も知らない状態であった。私の前に座ったお父さんがフランス料理店のオーナーシェフということが分かり、「今度行くから安くして下さいよぉ」なんて軽口を叩いていたのだが、家に帰って調べると、ミシュランを獲得しているお店だということが判明。その1か月後ぐらいに訪れ、こんな優雅な時間を過ごしたことなんてあっただろうか、というぐらい心地の良い時間を過ごさせてもらった。ちなみに、この一連の話を近所に住んでいる生徒のお母様にすると、「先生、あそこはそんな簡単に予約を取れる店じゃないんですよ。私が電話したときは埋まっていました」と教えていただいた。先日、そのお父さんと子供のサッカーを観戦しながら立ち話をしているときに、「どうやって新しいメニューを生み出すんですか?」と尋ねると、「野菜が好きなんで、使いたい野菜をどのように調理するかを決めて、それに何が合うだろうかっていう順番で考えていくことが多いです」というような答えが返って来た。予想外であり、一方で「そりゃ一つ一つの料理がおいしいわけだ」と妙に納得にした。メインになる肉や魚を選んで、それに何となく野菜を添えているわけではないのだから。こういうとき、頭の中で教育や子育てに置き換えるとどうなるだろうか、という思考になることが多いのだが、単純に「すごく良い話を聞かせてもらった」という満足感を得て終わった。年明けになるだろうが、個人で参加できるフットサルに一緒に行きましょう、という話をしているので、その際にまたいろいろと聞いてみよう。お店が気になった方は私に直接聞いてください。お教えします。
この歳にして本格フレンチはおそらく人生初だったのだが、パリを中心にフランスを旅行するのが好きだったこともあり、大学生の頃に海老沢泰久著『美味礼讃』を読んだ。辻調理師専門学校の創立者である辻静雄の伝記小説であり、本場のフランス料理を勉強するために数々の有名レストランを訪れることが生き生きと描かれていたように記憶している。
さて本と言えば(わざとらしくつないでみた)、あるお母様に借りた橘玲著『言ってはいけない ~残酷すぎる真実~』が面白かったので、それを紹介するために元生徒である2人の留学生に連絡をした。一人目は、今年の2月からオーストリアのザルツブルクにある大学で学ぶN君。新しい環境で刺激を受けていたこともあり、当初はひと月に一度ぐらいの割合で近況報告があったのだが、夏休み前ぐらいから雲行きが怪しくなり、現在は完全に尻すぼみ状態である。観光を学んでいて、親からの金銭的なバックアップが十分であるにも関わらず、時間を見つけて旅行に行くことすらしていなのだ。そんなアホは中々いない。「うまく行かないときほど、動いて動いて動きまくれ、読んで読んで読みまくれ」と叱咤激励しておいた。ちなみに彼からは、同じ著者の『バカと無知 ~人間、この不都合な生きもの~』を以前に読んだとの返信があったのですぐに買い、現時点で3分の2ぐらいは読み終えた。帯には「『言ってはいけない』から6年、“きれいごと社会”の残酷な真実」とある。2冊目ということで新鮮さが失われたというのもあるかもしれないが、『言ってはいけない』の方が断然面白かった。きっと読む順番が逆でもそれぞれの本に対する評価はさほど変わらない気がする。2人目が「Vol.664スモールデータの収集」にも登場したアメリカにいるK君。3月に「面白い本あったらまた連絡するわな」と送りそのままになっていたので、久しぶりにラインをした。彼は学業が忙しいにも関わらず海を渡ってからも相当な量の本を読んでいる。その中から何冊かを紹介してくれたので即座にすべて注文した。その中の1冊、熊谷晋一郎著『リハビリの夜』は、引き込まれて最近にしては珍しく3日で読了した。熊谷氏の略歴に関しては、ウィキペディアに次のようにある。「山口県新南陽市生まれ。新生児仮死の後遺症で脳性麻痺となり、車椅子生活を送る。小学校・中学校と普通学校で統合教育を経験し、山口県立徳山高等学校、東京大学医学部医学科を卒業。小児科医として病院勤務を経て2015年より現職。」なお、現職とは「東京大学先端科学技術研究センター准教授」である。この本に関しては、社員が月に1回HP上に上げている書評の課題にすることにした。年明け一発目に当たる1月25日(金)に、3人が同じタイミングでこの本を読んで感想を述べるので楽しみにしておいていただきたい。性に関することも赤裸々に語られているので、R15指定ぐらいになるだろうか。あれだけ明け透けに書けるのは、日常生活でもっと恥ずかしい思いをしているから、というのが私の見立てである。読み進めながら、「そう言えば」となった。K君と同じ学年で、現在研修医2年目のFさん(2年ほど前に、研修を希望する病院に提出する彼女の志願書の添削を行ったことを確かブログでも言及したはずである)の専門がリハビリに決まったという話を、この前ゴルフに行ったときに聞いたことを思い出した。そのときは、「整形外科所属になるっていうこと?」「違います」で話が終わっていたので、「おもろい本があるで。これ専門と近いんちゃう?」とラインをすると、「リハビリは細かく分かれているので読んでみないと分かりませんが、そんな遠くない気がします。仕事帰りに本屋に立ち寄ったのですが無かったのでネットで注文します」と返って来た。私もそうだし、彼女も留学中の2人にしても、勧めてもらったものをすぐに読んでみよう、となれる関係というのはすごく良質である気がしている。結果的に、本がメインテーマになってしまったので、タイトルを「行ったり来たりで深まる関係と広がる世界」などとすれば良かったかもしれない。「行ったり来たり」というのは本に関する情報をやり取りすることを指している。
既に3,000字近くなってしまったので、この後どのように展開するはずだったかをできる限り簡単に述べて終わりにする。中学受験生の一人のお父様が急遽パリに転勤になり、小学校を卒業した後に家族で引っ越すことになった。私が連絡をいただいた10月の時点では口頭ベースの打診であったため、少なくとも内々示が出るまで本人に伝えないのはもちろんのこと、その後も事実を隠した上で折角の機会なので本気で受験に取り組ませた方が良いのかなど、電話で相談を受けた。いつもはお母様からなのだが、珍しくお父様からであった。ご夫婦の考えを聞いた後、私はその場でそれとは異なる提案をした。それにも関わらず、「確かに先生のおっしゃる通りです」と受け入れていただき方針が決まった。その後に行われた面談で、お母様から「うちの主人は1回しか会ったことがないのに、何か知らないけど先生のことを信用しているんです」という話があった。冒頭で登場した近所の生徒のお母様からも、「何か知らないけど」という言葉こそ無かったものの、「主人は先生と1回しか会ってないのですが信頼してるんです」と面談で教えていただいた。K君やF君が入塾したのは志高塾1年目か2年目で、中学受験において何の実績も無かった頃である。2人のお母様も「何となく」であるにも関わらず、信頼してお子様を預けてくださった。何となく任せてみようかな、という雰囲気を持っている人でありたいし、その期待を裏切らない人でありたい。昨日、寝る前に『バカと無知』を読んでいると、『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』などのベストセラーがあるマルコム・グラッドウェルは、・・・」という記述があった。