2024.12.03Vol.665 フォーム屋ではございません
予告通り、高一の生徒が作成したニューヨーク研修の志望理由書のビフォーアフターを紹介するところから始める。
「ビフォー」
今回のニューヨーク研修に応募した理由はプライベートの旅行では訪れることの出来ない国連本部の中や姉妹校であるフォーダム高校やジョージタウン大学など場所を訪れることができることと、米州開発銀行や世界銀行でグローバルに活躍されているOBの方々の経験談を聞き、アメリカで働くという進路の選択の決め手を聞くことで、英語の素晴らしさや利便性をOBの方々を通すことで改めて実感することで、英語を勉強の中の1つの教科としか見ていない今の視点から世界的に使われている世界共通語であると捉えることができるようになるほどのきっかけになると思い至りました。
アメリカは移民の国と呼ばれ、さらに世界経済の中心である国であるアメリカは世界中の文化が集まっている国なので、日本や今まで訪れたことのあるオーストラリアやイタリアとの生活や人々の住む環境、街並みなどの違いを自分で見ることで写真などでは得ることのできない、街を歩くことで実際に気付くことができる人の流れや環境の音の違いが分かるのでアメリカに行ってみたいです。
今まで僕は英語が大の苦手でイタリアやオーストラリアを訪れた時にも現地の人との会話は英語ができる母親頼りでした。
しかし、今回のニューヨーク研修で自分の英語力を試しつつ、普段学校のLCの授業でしか触れることの出来ないネイティブが話す英語にたくさん触れ、コミュニケーションをとることのできる約10日間を通し、苦手を克服して英語を上手に扱えるようになるための成長の糧とするためです。
だから、今回のニューヨーク研修で僕は現地のアメリカ人と自分の力のみで話し、ネイティブが喋る新鮮な英語に触れることでの英語の力の増加を目標としています。
僕は他の高1の面々とは違い成績も低く英語も苦手ですが、班などのグループで話し合う時などに他人とは違う様々な意見や案を臆せずに発表することができるので、文化祭までの発表準備でも英語が出来ない僕ならではのニューヨークを見た時意見を挙げることができると自負しています。
以上の理由から今回のニューヨーク研修を志望するに至りました。
「アフター」
僕の母は英語の教師をしており、他の教科についてはあまり口うるさくないのですが、英語のことになると人が変わるため、本来言われたくなければちゃんと勉強しないといけないとわかりながらもこれまでずっと遠ざけてきました。その結果、英語の成績は目も当てられないほど悲惨な状況が続いています。その母が、オーストラリアやイタリアを家族で訪れた際、ホテルで照明が壊れたときに修理を依頼したり、現地の人と日常的な会話を楽しんだりしている姿を目にしたとき、日本にいるときには見られない頼もしさや格好良さを感じました。
今回、自分の成績を顧みずわずかな可能性に懸けてニューヨーク研修に応募することにしました。これを機に、逃げ続けることを止め、モチベーションを上げて、英語の勉強に力を入れるように自分を持っていきたかったからです。もし、選ばれたのであれば、間違いを恐れずに積極的にコミュニケーションを取り、わずか10日間ではありますが、少しでも多くのことを経験して帰国したいです。
また、上で挙げた英語を学ぶこと以外にも個人では入ることが難しい国連本部や姉妹校であるフォーダム高校やジョージタウン大学などを訪れることができることにも惹かれました。そして、米州開発銀行や世界銀行でグローバルに活躍されているOBの方々の話を現地で聞けるということも魅力的です。外国で働くことのやりがいや苦労などについて尋ねてみたいです。その他、まだアメリカに行ったことはないため、映画などで度々目にする有名な観光地に行くのも楽しみです。
最後に、僕は他の高1の面々とは違い成績も低く英語も苦手ですが、だからこそ、帰国した際には英語ができない僕ならではのニューヨークを見たときの意見を述べることができます。そして班やグループで話し合う時に他人とは違う意見や案を臆せずに発表することができるので、研修旅行報告会の準備でも貢献できると自負しています。
以上の理由から今回のニューヨーク研修を志望するに至りました。
私がコメントをする前に、お母様からいただいたメールを一部抜粋して紹介する。前回は無許可であったため、お詫びと使用させていただいたお礼を後からお伝えしたが、今回は「この部分を載せたいのですがよろしいでしょうか」という形で事前にお伺いを立て、承諾をいただいている。
第一段落があるからこそ、次の段落そして最後の主張が際立って、読み手が引き込まれる展開。息子の成績は応募者としては全く魅力的ではなくても、先生方がこの志望理由書を読んで息子の名前だけみて落選ということはなくなった、もしかしたら最終選考になんとか食い込めるかも、なんて親バカの母は思っております。
このような類のものを作成する際に気を付けるべきなのは、大げさに表現したりそれっぽいことを入れようとしたりしないことである。たとえば、「今回のニューヨーク研修で僕は現地のアメリカ人と自分の力のみで話し、ネイティブが喋る新鮮な英語に触れることでの英語の力の増加を目標としています」に関しては、「今時オンラインでアメリカ人といくらでも話せるけどやってる?」と突っ込まれたらアウトである。今できることをやった上での「今回のニューヨーク研修で自分の英語力を試しつつ」であれば理解できるのだが、そうでなければ、「自主的に何もしてへんねんから、試さんでも通用せえへんのは明らかやん」で終わってしまう。それ以外には、評価者が自分に関するどのような情報を持っているのか、ということを踏まえなければならない。今回で言えば、学校の先生たちが合否の判断を行う。英語を含め、すべての教科の成績のデータを持っているので、これまでちゃんと勉強をしてこなかったことに関して言い訳になり過ぎないようにしながらも、理由を述べた上で未来に向けての展望を示さなければならない。主催者が外部組織で、これまでの成績の提出を求められず、志望理由書とその提出1カ月後に行われる英語の試験と面接で決まるのであれば、「半年前には英検2級すら合格できなかったが(彼がそうだというわけではない)」というような過去についての何かしらネガティブな内容を盛り込み、1カ月間必死に勉強して本番のテストでそれなりの点数が取れれば、「めちゃくちゃ良くはないけど伸びてはいる。確かにやる気はあるな」という好印象を持ってもらえる可能性が高まる。
発表は明日。九分九厘とは言わないまでも九分五厘選ばれないだろう。倍率は7倍ぐらいで、英語の成績は応募者の中ではほぼ最下位であるからだ。厳しいことが初めから分かっているからこそ、じっくりと時間を掛けて一緒に中身のあるものに仕上げた。こういうものを作成する機会は中々ないので良い経験になったはずだし、一生懸命取り組んだ分だけ悔しさを感じられる。希望しても、過去の積み上げが無ければ叶えられないことがあるということを実感して欲しい。
『大改造!!劇的ビフォーアフター』というテレビ番組があった。ある匠が、元の家で窓か何かに使用されていた様々な色のガラスを細かく砕いて、それらが散りばめられた美しいカラフルなステンドグラスに生まれ変わらせていた。今回の志願理由書は、ビフォーの時点で高1にしてはよく考えられたものになっていた。だからこそ、それなりに手を加えはしたものの、ほとんどの材料はそこから持って来ることができた。特に最後の段落は彼らしさがよく出ていたので、位置も内容もほぼそのままである。文章を仕上げるときと同様に、生徒たちを育てる上でも、まずは虚心坦懐にその子自身をよく眺めることである。「長所」、「短所」から入るから、それ以外の部分を見落としてしまうのだ。良い悪いは一旦横に置き、その子らしさを見つけて、それを生かすための方策を考え、実行するのが教育に携わる我々の務めである。リフォームすることで既にある素材を活かすのだ。
人に注意をしておきながら、それっぽいことを書こうとしてしまった。明日、予想通り不合格になれば「俺の時間を返せ」と言い放ち、万が一合格していれば、「あの成績で合格したってことは俺のおかげ以外の何ものでもないな」と手柄を独り占めしてやろう。