2024.01.16Vol.623 こういうときはあれ
「こういうとき」とは何らかの理由で、どうにもならないぐらいに思考力が低下しているか、気力が枯渇しかけているか、もしくはその両方のときである。「あれ」とは人の文章をそのまま掲載する熟練の技のことを指している。
今回は、「高円宮杯第75回全日本中学校英語弁論大会」に出場した中3の生徒の英語のスピーチ原稿を紹介し、その後に日本語訳、そして、最後に、ほぼ空っぽに近い心のエネルギーを使い切って、ギーコギーコと軋みを上げながら頭をどうにか回転させて私の感想を述べる。このタイミングで、「こういうとき」が訪れることは分かっていたので、去年の12月上旬の時点で、日本語訳を出して欲しい、というお願いをしていた。では、お楽しみください。
The Key: Mock Elections
As a Japanese girl, I am really not happy with the current gender gap, and I think that one way to close this gap is to have women more involved in politics.
Let’s start with family. Have you ever heard the term “family service”? It is a term used when men take time off to do something for their families. Due to women’s growing participation in society, men have to take on more family responsibilities. Why is there a special term for men, while women are taken for granted? This is just one example of gender inequality that I noticed. It is time for both men and women to be viewed as equal and to get rid of phrases that praise one gender over the other.
I have found inequality in politics as well. In a recent election, I was shocked by the low number of women politicians in Japan. Today, the strong sense of “Politics is for men” continues to cast a shadow preventing an increase in women legislators. Surprisingly, according to the Gender Equality Bureau, the percentage of female legislators in Japan in 2023 is only 15%. This was the same as Sweden in 1970. However, Sweden has raised that almost three times to 46% in the past 50 years. In The Gender Gap Index published by the World Economic Forum, Sweden is ranked 5th while Japan is 125th out of 146 countries.
Last year, as a student council officer, I was engaged in school politics. After conducting a survey, we put forward a proposal to place sanitary products in the school restrooms. We could easily make this suggestion, largely in part because our school is an all-girls school, but I realize girls may encounter hurdles in expressing their opinions in broader society.
The key to solving this is us younger people. Japanese policy is more oriented toward the elderly. According to the Ministry of Internal Affairs and Communications, the voter turnout of people in their sixties is the highest, at about 70%. While women turnout is currently less than 50%. If we raise this percentage, it will help bridge the gender gap. To do this, I would like to help educate those under the age of 18 about politics in a fun way. Implementing mock elections could work. A mock election is a pretend voting event to practice voting for actual elections. I’m targeting those who do not have the privilege to vote yet, because the gender gap problem needs to be solved through long term action. I hope by doing this, students will naturally become more interested in politics. I am also hoping that other schools in the Kansai area would join me in trying mock elections, too.
Japanese politicians won’t make changes unless we act ourselves. I, as a future voter and a woman, decided to face this issue. Why don’t we start by thinking about what gender gaps there are within Japanese society today. Even better, join me in holding a mock election in your school. I believe small events can lead to big changes.
(511 words)
「鍵は、模擬選挙にある」
私は日本人女性として、日本の男女平等の現状に対して不満を抱いています。そこで、この男女格差を縮める一つの方法として、女性の政治参加を活発にするための方策を提案します。
まず、身近な家族のことから考えてみましょう。皆さんは「家族サービス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは男性が家族のために何かをするときに使われる言葉です。女性の社会進出の拡大と共に、男性は家庭の一員としての責任をより多く負わなければならなくなっています。家族のために時間を使うことは、女性にとっては当然のこととして考えられています。それなのにどうして男性だけに特別な言葉があるのでしょうか。これは私が気づいた男女不平等の一例にすぎません。いま、男性と女性の両方が同じ立場とみなされ、一方の性別を他方よりも称賛するような表現がなくなる時が来ているのです。
さらに、この不平等は政治の世界にも伺えます。私は、日本における女性政治家の少なさに衝撃を受けました。日本では現在も「政治は男性のもの」という認識が根強く、それが女性議員の増加を阻んでいます。驚くべきことに、男女共同参画局によると、2023年の日本の国会議員における女性の割合はわずか14%です。この数字は1970年時点のスウェーデンと同じなのです。しかしながら、スウェーデンは過去 50 年間でこれをほぼ 3 倍の 46% に引き上げました。また、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数では、スウェーデンは146カ国中5位、日本は125位となっています。
昨年度、私は生徒会役員として学校運営に携わりました。 アンケート調査を実施したのち、私たちは学校のお手洗いに生理用品を置くことを学校に上申しました。このような提案が容易にできたのは、女子校であるということが前提にあります。しかし、一般的な社会では、女性は自分の意見を表に出すことを躊躇してしまうのではないかと考えています。
この問題を解決する鍵は私たち若い世代にあります。日本の政策は今、高齢者をより重視したものになっています。それは投票率と関係しています。総務省によると、60代の投票率が最も高く約70%です。一方、男女別のデータに注目すると女性のそれは現在50%にも満たないのです。この割合を高めることができれば、男女間の差を近づけるのに役立つと私は思います。そのために、政治を18歳以下の人たちにとって身近なものにしていきたいのです。模擬選挙の実施は効果をもたらすでしょう。ここでの模擬選挙とは、国政選挙と同じタイミングで、それを校内で行うことを意味しています。このように選挙権を持たない未成年を対象にしているのは、ジェンダーギャップ問題の解決には長期的な視点、取り組みが必要だからです。この取り組みによって、生徒たちの政治への関心が高まることを期待しています。また、関西地域の他の学校も巻き込みたいと考えています。
私たちが自ら行動しない限り、日本の政治が変わることはありません。私は将来の有権者として、そして女性として、この問題に向き合うことを決めました。今の日本社会にどのような男女格差があるのかを知ることから始めてみませんか。そして、あなたの学校でも模擬選挙を行ってみませんか。ほんの小さな取り組みでも、大きな進歩につながると信じています。
彼女は、兵庫県で20人中3位に入り、東京での決勝予選大会への出場権を得た。そして、151人(東京、大阪は5名、などの例外はあるものの、基本的に47都道府県から3名ずつ)の中から27人だけが選抜される決勝大会に進出し、最終的には10位に輝いた。
計測できないことなので、単なる私の感覚に過ぎないのだが、全出場者の中でも、アイデアを練るのに彼女が費やした時間は3本の指には入るはずである。1番であっても不思議ではない。それだけ、考えては調べて、考え直しては調べ直して、を繰り返していた。英語の弁論大会なので、英語のスピーチの練習も含めたトータルの時間となるとどうなるかは分からない。
決勝大会まで進んだことで彼女は貴重な体験を重ねることができたが、まだ終わってはいない。模擬選挙を実施して一区切りとなる。衆議院選挙は解散によって時期は変わるが、少なくとも来年の7月に参議院選挙は行われる。ちょうど私が夏期講習の時間割を組むのに四苦八苦している頃である。1年半後の「こういうとき」に、その成果を報告する機会があることを期待している。
中高一貫に通っている生徒は、特に中3、高1の2年間で何かしら「経験」と呼べる機会を持つことが大事だ、と最近考えるようになった。高2からは大学受験を意識し始めるし、逆に中2ぐらいまでは大したこともできないので、その真ん中の2年がちょうど良いのだ。推薦入試の履歴書に書くことを目的にやりたくも無いことに時間を費やすのはもったいない。ただ、推薦入試を受けるかどうかはさておき、履歴書に書けるような何かをやろう、というところから対象となるものを探し始めて、その条件を満たした上で、かつ自分が興味が持てそう、それによって成長できそう、となったら、是非やって欲しい。第3者として望んで終わりではなく、何かしら具体的な働きかけもしていきたい。そのために、そういう類の活動に現時点で参加している生徒たちから情報を集めているところである。
最後に、以下のページから決勝大会の全スピーチを動画で見られます。お時間のある方は、是非ご覧になってください。
https://jnsafund.org/