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2023.10.03Vol.609 今がそのとき

 5年生の三男に向かって、「ほんと馬鹿だなぁ」という言葉を投げつけることが最近めっきり増えた。「めっきり」というのはちょうど今の時期がそうであるように「めっきり涼しくなった」や、子育てであれば「怒らないといけないことがめっきり減った」などとポジティブな意味合いで使う気がしていたので念のために辞書を引いてみた。「目立って変化するさま」とあったので、いずれの場合でも使えることが判明。
 「Vol.606 棚卸作業をしたからこそ見えてきたこと」の冒頭で、9月20日(水)の夜に、三男を小倉駅でピックアップする予定であることを伝えていたが、結果的には宿泊地である門司まで一人で来させた。小倉駅から門司駅までは在来線で15分程度なのだが、知らない土地で乗り換えを経験するのも良いのではないか、と考えてのことである。21日(木)は下関で宿を取り、22日(金)は朝からふぐで有名な唐戸市場に行き、海鮮丼を食べる予定にしていた。それは、旅行前に三男がいくつか出したやりたいことの1つであった。その日の朝、早起きして私と一緒にお風呂に行き、三男はそのままそのフロアにある漫画を読めるスペースに残ることになったので、出発の時間と、準備をするためにその15分前には部屋に帰ってくるように伝えた。時間は守ったものの、あろうことか漫画片手に戻ってきたのだ。そこで、冒頭の一言である。しかも、その日は萩に移動し、松下村塾を含め、維新の志士に関わる施設を訪れることになっていたため、旅行情報誌に載っている分(たかだか見開き1ページ)に関しては事前に読んでおくように旅行前から伝えていたにも関わらず、それもしていなかった。そして、三男は、私が唐戸市場で朝ご飯を堪能している間、車に残ってその雑誌を読むこととなった。
 私は、あれをしなさい、これをしてはいけない、といった形で、カチッと決め込むことを好まない。その理由は主に2つ。1つ目は、それさえクリアすれば良いんでしょ、いう打算的な考え方になってしまうから。2つ目は、指示待ちの人間になってしまうから。これは生徒たちに対しても同様である。決め事の数を必要最低限に絞り、かつそれらを意味のあるものすることが私の役割である。
 「ほんと馬鹿だなぁ」は、頭が悪いということではない。これもやはり生徒も我が子も同様で、能力を否定することだけはしない。人の話を聞いていなかったり、それもあって同じ過ちを繰り返していたりという物事との向き合い方、取り組み姿勢に対する叱責である。
 今回の旅で、三男の『日本100名城に行こう』というスタンプ帳を見て驚いたことがある。鹿児島城のところがブランクのままになっていたのだ。この夏の終わりに鹿児島に行った際には、既に訪れたこともあり立ち寄らなかった。そして、思い出した。「ただ行っただけでは意味が無いので、せめて自分でページを開いてどこに押すかが分かるようになってからスタンプ帳を与えよう。三男とはまた改めてこれば良い」と以前に考えていたことを。長男のスタンプ帳を見ると、鹿児島城のところには「15年3月24日」とあった。当時、三男はまだ2歳だったのだ。ちなみに長男は、埼玉の鉢形城、川越城と千葉の佐倉城、そして、東京の江戸城の4つを残すのみである。96城はすでにクリアしているのだ。
 三男は、美術館などに連れて行っても作品をじっくりと見たり説明をきちんと読んだりすることができず、それが日頃の短絡的な思考と結び付いていると感じていたのだが、その原因が掴めた。二男は長男に少し遅れを取るもののどうにか付いて行けるが、三男は到底無理なので飛ばして行くしかないのだ。三男のペースに合わせてあげることが大事なので、4泊5日の旅から帰ってすぐ、「これからは想士(そうし)と月4回の日曜のうちできれば3回、少なくとも2回は2人で城巡りを中心にいろいろなところに行く」と妻に伝えた。長男は少なくとも年長のときには私と2人で遠出をしていたので、5年遅れていることになる。時々親御様から「もう手遅れですか?」と尋ねられることがあるのだが、決まって「そんなことはないです。気づいたときにやるしかありません」というような返答をする。今がそのときなのだ。
 どこの城であったかは忘れてしまったのだが、毛利元就が信仰した三面六臂(さんめんろっぴ)の仏像、摩利支天(まりしてん)について、絵と共にそれに関して解説されていた。その絵を見ながら、「何が三で、何が六なんだと思う?」というような質問をした。子供時代に読書習慣が無かった私は、恥ずかしながら大人になっても「八面六臂(はちめんろっぴ)」という四字熟語を知らず、国語を教えるようになってから過去問で出て来たので慌てて意味を調べたものの一発で覚えられず、それを何回か繰り返し、ちゃんと頭に納まったのは最近のことである。だが、今回の一件でもう頭から抜けることはない。また、八面六臂が三面六臂から来ているということも知った。もしかして、と子供の頃アニメで見ていた『キン肉マン』に出てくるアシュラマンというキャラクターについて調べてみたら、「3つの顔と6本の腕を持つ魔界のプリンス『アシュラマン』」と出て来た。もし、そこに長男や二男がいれば、三面六臂に関して、上のようなやり取りを三男とすることは九分九厘無かったはずである。旅行期間中、ルビを振っていない漢字の読みを聞いたり意味を尋ねたり、それ以外にもいろいろ考えさせたり私が説明したり、とできる限りたくさんの会話をしながら見て回った。
 真夏を迎えるとさすがに歩き回る気力が湧いてくる気がしないので、ひとまず来年の6月ぐらいまでは2人で楽しい時間を過ごす予定にしている。そのときには、「ほんと馬鹿だなぁ」はめっきり減っているはずである。

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