2020.12.08Vol.474 ミクロとマクロ
コロナが流行り始めた春先の時点で今年は採用のチャンスだと考えた。そのことは以前に述べた。少なくとも今年と来年はそうだ。データは取っていないため感覚的ではあるが、学生アルバイトの応募は去年の倍以上になっている。特に豊中校には下宿している阪大生が飲食業から我々の方に流れてくるはず、と具体的にイメージしていた。学生向けの採用は『バイトネット』というサイトだけを利用して行っている。最近まで『学生アルバイト情報ネットワーク』という名称だったのだが、「ネットワーク」という名の通り日本全国のほとんどの大学を網羅している。2、3年前にそこの担当者に阪大生がどのような業種を選んでいるかを尋ねたときに、「飲食業が多い」と返ってきたのが上のように考えた理由である。得意のA, Bの話にあえて持って行くと、飲食(A)から塾(B)に直接ではなく、途中に別のPやQを挟んで玉突きのような形で塾にたどり着いたのかもしれない。正社員に関しては、通常10、11月ぐらいに一通り就職活動を終えた数名の学生が志高塾という小さなところに興味を持ってくれ、その中から採るといった感じである。ただ、こちらの方は優秀な人がいなければゼロでも構わない。2校だけであれば現状の社員数で十分であり、拡大することが先にあるわけではないからだ。現時点で社員の応募に関しては動きが無い。例年より遅いのだが、公務員試験が後ろ倒しになったこともあり、全体的に時期がずれているのが要因なのであろう。おそらく。
毎度のことながら前置きが長くなった。「(志高塾にとって)今年は採用のチャンスだ」というのはミクロ的な視点である。日本全体の景気が悪くなるというマクロ的な要因が作用している。よって、私の考えは「自分さえ良ければいい」という身勝手なものに映るかもしれないがそうではない。もちろん、誰かの不幸を喜んでいるわけでもない。日本の景気悪化という前提条件があり、その中でどのようなポジショニングを取るのか、というのを考えた結果である。
これと同じようなことが中学受験でも起こる。大手進学塾は残り1か月、ラストスパートだからと闇雲に量だけをこなさせようとする(夏を制するものは受験を制す、と何だかよく分からないことを言いながら、夏期講習でもほとんど同じようなことをさせているのだが)。そのようになる要因の1つにすべてを網羅しようとすることが挙げられる。国語で言えば、物語文は得意だが論説文が苦手という子がいる。その場合、物語文の状態を維持しつつ論説文を底上げすることになる。それもただたくさん解かせれば良いわけではなく、できていない原因を掴んで具体的に手を打って行かなければならない。論説文はそもそも小学生が読むようなレベルの文章でないことが多く、記述問題でも抜き出しに近い形で答えようとする生徒は少なくない。それを改善するためには、ほぼ引用できるものであってもあえて自分の言葉で書かせることが有効である。それをしようとすれば、本文を消化するというプロセスが自ずと入るからだ。理解した上で本文の言葉を組み込むのと、よく分からないから本文の言葉を組み合わせるのでは内容に大きな差が出て当然である。逆に、論説文の方が得意という子もいる。それゆえ、大手塾は受験生全員に対して漏れがないように、と物語文も論説文も同じ分量を課すことになる。しかも、それは問題をたくさん解かせているだけで対策でも何でもないことが悲しいところである。算数は代数と幾何、理科は計算分野と暗記分野と言ったように大別できる。仮に各教科で両方とも苦手である場合でも、どちらから手を付けた方が良いかを考え、軸足の位置を決めてあげなければならない。大手塾がそのように全体に網をかけようとしてくれるおかげで、志高塾の生徒は合格する確率が高くなる。より重要なことに焦点を絞ることで、心も体も健康になりその結果頭も冴えるからだ。正に最後の1か月が追い込みの期間になる。
人には得手不得手がある。私の場合で言えば、マクロ的な視点で物事を捉えることの方が得意である。上の2つの例においても、日本全体の採用状況、大手塾の受験対策を踏まえて、自分たちがどのポジションを取るべきかを決めている。ミクロとマクロは、時間の場合であれば短期と長期になる。マクロ的、長期的に眺める、と言えば格好はいいのだが、単に無駄なことをしたくないだけなのだ。高校時代、定期テストにおいて数学の勉強をやり切らずに(1回は解いたものの、分からなかったものを2回、3回とやり直してすべての問題を完全に理解できたというレベルに達しないままに)当日を迎えたことが何度かあった。同じような状況の同級生が、試験が終わると同時に、次は頑張ろ、と切り替えていることが不思議でならなかった。数学は、単元同士のつながりが強いため、不十分なところがあるときちんと積み上がらないのだ。それゆえ、私はやり残した部分をきれいにしてから次に行くようにしていた。一度の定期テストぐらいであればごまかしはきくが、大学入試レベルでは対応できないからだ。そんな私も受験直前一カ月はさすがにミクロ的な対応をする。よく分かっていないのに飛行機の操縦に例えると次のようになる。これまで目的地を目指して飛んで来て、着陸態勢に入るのがこの時期である。途中で手前の空港に行き先を変更した生徒もいる。いずれにしても、どうにかこうにか着陸させればいいわけではない。できる限りソフトランディングさせてあげる必要があるのだ。それによって、スムーズに次のテイクオフに移行できるのだ。
2週間ぐらい前から「ミクロとマクロ」について書こうと思っていたので、それがずっと頭の中にあった。書きたいことはもっとあったのだが、最後に1つの話題に触れて終わる。数日前に、イチローが初めて高校生相手に指導を行った。その際、次のようなコメントをした。「緊迫したときは全体を見る。筋肉が緊張するとパフォーマンスが下がるのでそれを避けたい。打撃でもリリースポイントだけを見ると緊張する。全体を見ようとすること」。なお、「リリースポイント」というのは、ピッチャーがボールを放す場所のことだ。おそらく、その瞬間だけに意識を持って行くのではなく、ピッチャーが足を上げて投球動作に入ったときからゆっくりとタイミングを取ることの重要性を伝えたかったのでないだろうか。それはさておき、この記事に巡り合ったとき、ザ・カラーバス効果やん、となった。ちなみに、カラーバス効果とは次の通りである。「ある一つのことを意識することで、それに関する情報が無意識に自分の手元にたくさん集まるようになる現象のこと。 カラーバスは『color(色)』を『bath(浴びる)』、つまり色の認知に由来するが、色に限らず、言葉やイメージ、モノなど、意識するあらゆる事象に対して起きるとされる」。
上手な意見作文を書けるようにするなんていうのはミクロ的な目標でしかない。目の前のテーマと真剣に向き合うことで、添削を終えた瞬間それが頭の中にきちんとしまわれる。そういうものがたくさんあればあるほど、カラーバス効果が起きる可能性が高くなる。そうなれば、元々もあった情報が肉付けされ分厚くなる。これからも、そういうマクロ的な視点を大事にしながら生徒達とのやり取りを楽しんでいきたい。