志高塾

志高塾について
志高塾とは
代表挨拶
通塾基本情報
アクセス
お問い合わせ
志高塾の教え方
指導方法
志高塾の作文
志高塾の添削
読解問題の教え方
使用教材と進め方
志高塾の教え方
志高く
志同く
採用情報
お知らせ
志高く

2025.04.22Vol.683 安藤忠雄との過去から現在

 先週、グラングリーン大阪で開催されている安藤忠雄展に行って来た。図面や建物に関する記事は本や建築雑誌にも載っているので、模型や動画を集中的に見て回った。モダンアートなどの動画系の作品が無い限りはしんと静まり返っていることが多い美術館とは異なり、会場内には鳥のさえずりや風など自然の音が静かに流れていた。後で分かったことなのだが、会場奥に原寸大で再現された「水の教会」の空間から漏れて来ていたのだ。十字架を囲むように両サイドと奥の三方に現地で撮影されたそれぞれの季節の映像が少しずつ変化をしながら流れる仕組みになっていた。1年は5分ぐらいだったのだろうか。結果的に3年分ぐらいそこにいたはずである。私にしては珍しく無に近い状態になり、その空間に没入していた。心地良かったのだ。現地を訪れたことがあれば、どれだけ忠実に再現されていてもそこまで入り込むことは無かったであろう。その「水の教会」は星野リゾートトマムの敷地内にある。調べてみると、教室が1週間休みになるシルバーウィークの平日を利用すれば料金はスキーシーズンのほぼ半額で、運が良ければ雲海を見ることもできる。今年の9月はきっとそこにいる気がする。
 タイトル、初めに頭に思い浮かんだのは『私と安藤忠雄との過去から現在』だったのだが、あまりにも大げさな感じがするので「私と」を省いた。「自分の家を自分で設計できれば良い」という安直な考えで選んだ建築学科。建築を学んだおかげで狭すぎた視野は広がった。それに関しては心底良かったと今でも思う。一方、入学後かなり早い段階で建築家は向いていないということをはっきりと自覚していた。それでも、自分で選んだ道なのでただ諦めるのではなく、その先に道が無くても何かアクションを起こさなければ、という気持ちが強かった。あがいていた、もがいていた、どちらが適切だろうか考えたとき、「もがき苦しむ」というレベルまで自分を追い込んでいたわけではなく、「悪あがき」というお遊び程度に過ぎなかったので、前者に軍配が上がる。今回、会場を回る中で頭の片隅に追いやられていた記憶が甦って来た。何の帰りだったかは覚えていないが、両親と神戸の方に車で行った際に六甲の山の手にある集合住宅に連れて行ってもらい、2人を待たせて私は建物をいろいろな角度から眺めていた。また、なぜそんな選択をしたのかも定かではないが、真冬に南港にあるサントリーミュージアムに行き、寒空の下震えながら建物のスケッチをしていた。2004年に57歳で父を亡くしたのだが、四十九日が明けてから、50代前半を過ごした岡山でお世話になった人への挨拶と父の思い出の地巡りも兼ねて母と兄の3人で旅をしたのだが、その際に直島の安藤忠雄設計のホテルでも一泊した。3人の子供ができてからも一度そこで宿泊している。2年ほど前に三男と淡路島に釣りに行った際に前泊するところとして選んだのは「TOTOシーウィンド淡路」であった。去年、スイスのバーゼルにある「ヴィトラ・キャンパス」を訪れたときも、コンクリート打ちっ放しの会議棟の周りを一回りして、写真もたくさん撮って帰って来た。ちなみに、大学生の頃、家から車で10分のぐらいのところにある「光の教会」にドライブがてら友達と遊びに行き、夜に騒いでいて、隣接した敷地に居を構えている牧師さんに怒られたという思い出もある。
 社会人になり建築とは別の世界に進んだが、道後温泉を訪ねた際に「坂の上の雲ミュージアム」に寄るなど、思い起こせば時期ごとの濃淡の差はあるものの常に安藤忠雄が自分の中にはあった気がする。そんな実在する多くの建物を押しのけて私が一番好きなのは、1988年に発表された、中之島にある大阪市中央公会堂の再生案『アーバンエッグ構想』かもしれない。コンペがあったり依頼を受けたりした訳でも無いのに自ら提案を行ったのだ。外部には手に入れず、内部にコンクリートの卵型ホールを挿入するというものであった。大学生の頃、発想力よりもその行動力に驚かされたことを覚えている。2021年にパリ中心部に「ブルス・ドゥ・コメルス」という美術館がオープンした。商品取引所として使われていた18世紀の建物の中に円筒形のコンクリートを差し込んだのだ。この2つのアイデアは密接につながっていると勝手に思い込んでいる。来年、予定通りパリに行くことができれば良いのだが。
 大学生の頃との違いはあるものの、このまま人生が終わってしまうような焦燥感が強くなりつつある。現状から抜け出すべく、受験がひと段落した2月ぐらいからセミナーに参加するようになった。そのほとんどはオンラインなのだが、唯一リアルで行われた安藤忠雄特別講演『夢かけて走れ』に出席したことがきっかけで、主催者の株式会社エックスラボの社長の藤さんと出会うことができ、今、志高塾の質を上げるために力を借りているところである。あれから20年以上の歳月を経た今であればきちんとあがけるような気がしている。結果を出すための、甘い自分との戦いは始まったばかりである。

PAGE TOP